昨年の同じ時期に赤木沢を遡行したが、その時に出会った日本一厳しいと言われている山岳マラソンレース「日本アルプス大縦走、富山県魚津~駿河湾」に挑むランナーたちの不屈の精神力と驚異の身体能力に凄い刺激と一種の憧れを抱き・・・、「マラソンは無理でも、この二本の足で歩いてやろう!」といつしか考えるようになりました。幸い北アルプス方面の天候はしばらく安定状態が続くとの予報に、予定通り8月9日に八王子を出発した。今回は「日本アルプス大縦走」の第一弾として馬場島から入山し、早月尾根~剱岳、さらに立山・五色ヶ原・越中沢岳・薬師岳・太郎平まで縦走し、折立に下山する全行程約53km、4泊5日の山旅です。
8月9日(金)晴れ、ガスが濃く視界はほとんどない。 馬場島から早月小屋へ
馬場島を12時過ぎに出発。晴れてはいるのだが、剣岳をはじめ周囲の山々は見えない。登山口にある小さな社で登山の安全を祈願した。早月尾根からの剱は30数年ぶりだ・・・、いくらか緊張気味である。「剱岳の諭」の一つに、《人身とも鍛錬された人々よ来たれ》とあった。これまで幾多の困難を乗り越えてきたが、今回は格別な思いがある。登山口からいきなりの急登、鈍った足腰が悲鳴を上げる。しばらく登ると幾本もの杉の大木に出会う、樹齢は千年以上と思われ、まるで屋久杉のようだ。また、早月尾根は高山植物が多く種類も豊富なのには驚いた。木の根や木の枝に捉まりながら登ること約5時間半、ようやく早月小屋に到着した。
登山口に立つ「剣岳の諭」の石碑 | 早月小屋まで1,470mの登りだ! |
まるで屋久島に来たようだ・・・ | 樹齢千年以上の杉の大木が幾本もある |
ノリウツキか? | 可憐なシモツケソウ |
アオノツガザクラとイワカガミもいっぱい | 早月小屋が見えた・・・、後方は剱御前 |
山頂を目指すというのに、朝から濃い霧に覆われ晴れる様子はない。雪渓を過ぎると段々と険しくなってくる。ほんの一瞬間だけガスが途切れて、早月尾根の上部を窺がうことができ、改めてその険しさを実感する。やがてロープや鎖に捉まりながらの急登となったが、先を行く登山者が直上を登っているように感じる・・・。ガスで周囲や直下が見えないのが幸いしているのかも知れない。早月小屋から山頂までは3時間40分、8時46分に着く。明治40年に陸軍陸地測地部の柴崎芳太郎測量官が苦難の末、この山頂に四等三角点を設置した歴史に思いを馳せながら、先ずは花崗岩の標柱にタッチする。ただし、現在の三角点はそれから100年後の平成19年に三等三角点として新たに設置されたものである。下山途中、前剱のあたりで雷鳥の親子が砂浴びに興じていた。ガスが濃いときは天敵の猛禽類が来ないことを承知して悠々としている。結局、5~6分は待たされただろうか・・・。久しぶりなので剱沢まで一度降りてテント村などを見てから、別山乗越~別山と歩き内蔵助山荘に向かった。
雪渓をトラバース | 雪渓を過ぎるとクルマユリが |
朝露に濡れる花たち | シシウドか? |
早月尾根上部が時折姿を見せる | いよいよ険しさが増してくる |
ようやく山頂に・・・ | 陸地測量部柴崎測量官に思いを馳せる・・・ |
自然木でつくられた「御剱」の標識 | 雷鳥が登山道で砂浴びを・・・ |
岩の割れ目に根を下ろすチシマギキョウ | ハクサンフウロ、クルマユリも咲き乱れる |
何処までも拡がるコバイケイソウの大群落 | 剱沢のテント村 |
8月11日(日)晴れ、 立山連峰から五色ヶ原へ
ガスで視界がほとんどない中、富士ノ折立~大汝山~雄山へと歩を進める。めったに山頂の雄山神社には参拝しないのだが、今回だけはガスが晴れることを願い500円也を支払い「ガス退散」を祈願した。そのご利益か・・・?一ノ越に降りる途中で徐々にガスが薄くなり、やがて室堂平が見えてきたのにはびっくりした!そして、一ノ越からは雄山やこれから登る龍王岳を見ることができた。獅子岳への登山道は雪渓あり、お花畑あり・・・と変化に富んでいて飽きない。やがて五色ヶ原の台地まで見通せるポイントまで下って来るともうすぐザラ峠だ・・・。戦国の昔、佐々成政が家康に密に会うため厳冬期にここを越えた話や黒百合伝説の物語などを思い出しながら歩くうちに、やがて五色ケ原山荘に着く。まだ、13時30分である・・・今日は休養日、五色ケ原でゆっくりしよう!
山頂の雄山神社社殿がぼんやりと見えてくる | ガスの切れ目から初めて室堂平が見えた |
一ノ越の分岐から龍王岳を見る | 獅子岳へ向かう登山道で |
小さいが花姿が可憐なミヤマリンドウ | 大きな花をつけるハクサンイチゲ |
佐々成政と黒百合伝説を思い出す・・・ | 獅子岳の下りからザラ峠・五色ヶ原を望む |
五色ヶ原のお花畑、後方は針ノ木岳 | 五色ヶ原の夕景 |
4時15分に小屋を出発する。今日の歩行距離は14.8km、行動時間は12時間近くなるはずである。ご来光をベストポイントで・・・などと考えている暇はない。鳶岳の下りで赤沢岳の後方から昇る太陽を拝むことができた。今回の山行で初めてのご来光だ!越中沢岳まで来ると、薬師はもちろんのこと赤牛~水晶が目の前に横たわる。読売新道を水晶から平の小屋まで歩いたのは6~7年前だろうか・・・?スゴ乗越小屋で遅い朝食をとり、coffeeをたっぷりと飲み、給水して出発する。ここからが長く、間山~北薬師~薬師と何度アップダウンを繰り返したことか、それでも薬師の山頂には予定より10分遅れ、15時10分に着いた。剱も立山も・・・赤牛・水晶・鷲羽、針ノ木・烏帽子・野口五郎、南方向には黒部五郎・三俣蓮華、その後ろには槍・穂高連峰も見える。そして足元には雲の平が広がる。熊谷会長たちが何処かを歩いている筈だ・・・!16時には今日の宿、薬師岳山荘に着く。
赤沢岳から昇る朝日、鳶岳の下りから | 越中沢岳山頂で、後方は薬師岳 |
ムシトリスミレのなかまか? | 間山から水晶~鷲羽・槍穂高を望む |
大輪の花をつけるシナノキンバイ | 大きく翼を拡げる薬師岳 |
最終目的の薬師岳に立つ | 槍・穂高連峰シルエットが美しい |
今日もご来光はあきらめ薬師岳山荘を4時15分に出発、太郎平小屋に5時30分に着く。体調も気力も十分だ・・・!朝食をとりながら双六まで足を延ばす計画を練ってみたが、新穂高温泉から松本までのバス代が少し不足する。バスはカード決済が利かないのだ・・・。そこで、きっぱりと諦め折立までの長い道のりをお花を眺めたり、薬師や太郎山を振り返ったりしながらのんびりと下山した。
薬師峠付近からの夜明け | 薬師岳のシュルエット |
どこまでもニッコウキスゲが・・・ | 蕾に挟まれ窮屈そう・・・ |
オニアザミ | ヤマハハコ |
端正な形の山は埋蔵金伝説の鍬崎山 | いよいよ薬師ともお別れ 五光岩ベンチで |
コースタイム 8/9 八王子6:01===越後湯沢===富山10:48===上市11:20⇒11:50馬場島12:10→1,600m 14:40→17:30早月小屋 8/10 早月小屋5:00→2,800m 7:34 →8:52剱岳山頂9:27→ 11:37 一服剣 →12:52剣沢13:30→15:32別山→16:30内蔵助山荘 8/11 内蔵助山荘5:00→7:25雄山神社7:40→ 8:20一ノ越 → 10:10鬼岳東面→11:05獅子岳→12:50ザラ峠→13:40五色ケ原山荘 8/12 五色ヶ原山荘4:15→鳶岳4:47→6:20越中沢岳6:50→9:30スゴ乗越小屋9:58→12:10間山12:20→14:10北薬師岳14:25→15:10薬師岳15:25→16:00薬師岳山荘 8/13 薬師岳山荘 5:15→5:30太郎平小屋6:15→6:50五光岩ベンチ→7:46三角点→9:20 折立10:50⇒12:20富山12:43===越後湯沢15:00===17:31八王子
概算費用 交通費:33,000円、山小屋宿泊費(飲み物代含む)4泊:42,000円、復路食事代など:2,000円 合計77,000円
目的貫徹!!おめでとうございます。それも順調にトラブルもなく山岳については総合的にまさにトップクラス!植物や風景もしっかりと観察され完璧です。
私たちとは黒部源流を挟んで歩いていたんですね!私たちも5日間目的を達成しました。数日後アップします。双六の帰り50代?のトレイルランニング姿の人が前を足が痛そうに…。「どちらからですか?」と、「魚津湾から黒部五郎まで歩いた、槍ヶ岳までの予定だったのですがあしにまめができて・・。今日は3日目です。」それもッィルトビバークで、びっくり!!そういえばあの過酷なレースのトップは魚津湾スタート後20数時間で寝ずに槍ヶ岳まで走っています。人間以上のまさに超人か鉄人!私たちに夢を見させてくれる岳人に栄光あれと願います。それらに感動して実践している?元木副会長にも・・・。
素晴らしい写真の数々。峰また峰の上を行く山旅、良いですねえ!私も行きたい。
クロユリ、ハクサンフーロ、ムシトリソウ、ヤマハハコ草までなんと素晴らしい!あらためて見させていただきました。ため息が出ます。壮大な山旅素晴らしいです!
Motokiさん、何度読み返してもその遠大な山旅に対する情熱にワクワクします。どこまでも登っていけそうな力強さは、経験と綿密な計画に裏付けられていて、単独での攻略にも全く不安が感じられません。山の動植物景観に向き合う姿はこれぞ岳人!と羨ましくなります。でも単独山行で心配なのは体調不良です。これからもどうか気をつけて山を楽しんで下さい。(岳人気取りでスミマセン)
鷲さん、有難うございます❗
第1弾は、富山湾から駿河湾へ『日本アルプス大縦走の山旅』」のスタートと言うこともあり、深く記憶に残っています。まだ、どこをどう歩くのかも定かではない状況での始まりでした。「ともかく、駿河湾まで辿り着くぞ!」——と、その意気込みだけです。
早月尾根からの劔は、悪天候に迎えられ——-?この山旅の尋常ならざることを知らしめされたようでした。
そんな状況下でも、花や動物や自然を観察する余裕はありました。それは、長年の経験の中で培われてきた、くそ度胸のなせる技でしょう—–! 山の会 元木